ねこうさぎ観察日記

A diary of observation on a rabbicat

虚無のススメ

お久しぶりです。
今日はあともう一つくらい上げる予定だけどとりあえず読書感想でも。
n冊くらい読んだ中から二つだけ、短めで。

 一般に世界三大ディストピア小説といえば、最初にみんな大好きジョージ・オーウェル1984年」、次にちょっとマニアックなエヴゲーニイ・ザミャーチン「われら」、最後に私が最近まで知らなかった「素晴らしい新世界」だと思っている。いま勝手に決めた。

 この作品がまた面白くて、1932年(=犬養毅首相暗殺年!)に書かれたにもかかわらず、実は三つの中ではいちばん(ただし、「われら」も舞台は26世紀らしいので同じくらいではある)未来の世界が舞台となっているのである。ずばりAF(フォード紀元)632年、すなわち西暦2540年。

 設定自体も一般のディストピア小説の範疇に収まるようなものではあるんだけど、それを「1984年」とか、あるいは冷戦によるソ連の敵視の以前に書いた点は元祖というか、先見の明としか言いようがない。

 しかもこの作品の世界、いわゆるディストピア小説的な「暗さ」よりも、吹っ切れたような「気楽さ」があってそこがまた異色。2+2=5(英語版Wikipedia参照)のような世界ではないのに、人類はみんな操り人形。よく海外のディストピア小説は共産主義への警鐘を鳴らすような趣旨で描かれることがあるが、この小説は違う。幸福を強制するから誰も不幸になりえない──それなのに、主人公たちは不幸が足りないがために不幸という皮肉。どうも奇妙な読後感がある。

 これ以上ネタバレはしないが、著者のハクスリーが親族に科学者や詩人をもつ知識人なのもあって、作中の科学とその描写は結構現実的。1932年に書かれたことを意識して読むとやっぱり驚く。また文明社会への皮肉も効いていて大変イギリス人らしい。

1984年」を読んだことがある、あるいは知っている人にはぜひ読んでほしい作品。


こっちもSF。ただしいわゆる文学的なやつ。
普段はSFのなかでもスペースオペラ的な方向のものばかり読むので、たまには違う感じのに手を出してみようと思って買った。

基本的に愛情とか感情に関わる短編がまとめられていて、おそらく人によってかなり評価が分かれる。
実際女性の行動とかが一般のラノベばりの都合のよさを誇ってるので、そこはちょっと減点要素かもしれない。ただそれぞれの短編の雰囲気とかは結構好きなので、私はいいと思った。

特に途中の「真鍮の都」なんかはSFと歴史(というか民話)の融合した感じが凄くよい。あとドニヤザードが可愛らしい。この短編はのちに長編化されて「宰相の二番目の娘」という題で出版されているので、機会があったら読んでみたい。

総評としてはなんというか、詩人が書いたSFといった感じ。全体的に読後感が温かくて、SFというよりやっぱり純文学のほうが近いかも?


感想は以上。なにかあったらTLで。